見渡すかぎり牧場や林が広がる中に、小さな町が現れ消える、いかにも北海道らしい風景をひた走る。女満別空港から約1時間、釧路と網走を結ぶ国道240号線の津別の町はずれの丘に、突然現れる真っ赤に塗りたくられたサイロと小屋が目印の「シゲチャンランド」。敷地8000坪という牧場跡地に、大小の「ハウス」と呼ばれる展示空間が点在し、屋外にもカラフルな立体物が置かれているのが見える。
シゲチャンランドの創造主・大西重成さんは1946年、この津別町に生まれた。高校を卒業したあと横浜郵便局に勤めるが、71年に渡米。ニューヨークのスクール・オヴ・ビジュアル・アーツに学んだあと、72年から東京でイラストレーターとして活躍してきた。当時はアーティストよりもイラストレーターのほうが注目されていた時代。ハービー・ハンコック『Feets Don’t Fail Me Now』や坂本龍一『Summer Nerves』などのジャケットワーク、雑誌『野性時代』の表紙、『ひらけ!ポンキッキ』のオープニングタイトルなど、大西さんと知らずに見ている作品もたくさんあるはず。
売れっ子イラストレーターだった大西さんが、立体物に表現の主体をシフトしていくのが80年代末。そのころから「時代の“旬”の仕事は若い者がやる。彼らと違うものをやるには、自然の奥深さが必要」と考えはじめ、96年に東京から北海道津別町へ帰郷した。翌97年からシゲチャンランドづくりに着手し、2001年春にようやく開園のはこびとなった。
もともと牧場のために建てられた建造物に、徹底的に手を加えて再生された展示空間は、それぞれにヘッドハウス、アイハウス、ハンドハウスなどと名前がつけられ、異なるジャンルやシリーズの作品が集められている。ひとつの傾向の作品群に、ひとつの空間を丸ごと使うという、普通の美術館では考えられない贅沢な展示構成だ。オホーツク海岸で拾った流木、森で見つけた木の根っこ、獣の骨、錆びた空き缶、壊れた農具……見ようによってはゴミ同然の素材に、大西さんはいのちを吹き込んできた。アーティストの手技(てわざ)が作り出したものというよりも、事物が変容するプロセスにそっと手を添えている、そんな自然への優しさとリスペクトがにじみでる作品群が、ハウスにびっしり並んでいる。展示のピーナッツ人形は、一点もののカラフルな造形物でいっぱいのショップで見つけたもの。