川本史織 ※タイトル後述

《The “LUCK” room_ nanai room》2012年

《The “LUCK” room_ isami room》2017年

《The “LUCK” room_ sakurako room》2015年

主にオタク属性の女子の部屋を撮影したシリーズ。

秋葉原のとあるライブバーで働く女の子達は、その業務形態から生活環境が不規則でした。

それゆえに部屋が荒れつつあり、その荒れた様子を自ら「堕落部屋」と呼ぶようになりました。

それが始まりです。

部屋は英気を養い、次に繋げる場所であると考えられます。

好きなものに囲まれて元気を充填したら、明るい未来に向かって生きて行く。

それが堕落部屋。

2013年に発表された写真集『堕落部屋』は、デビューしたてのアイドルだったり、アーティストの卵だったり、アルバイトだったりニートだったり……さまざまな境遇に暮らす、すごく可愛らしい女の子たちの、あんまり可愛らしくない部屋を50も集めた、キュートともホラーとも言える写真集だった。50人の登場人物はそれぞれ室内の全景と数カットのディテール、それに本人のポートレイトというセットで、さらに巻末には名前と年齢、職業、好きなキャラや趣味、給料、「自分を食べ物にたとえると」、「嫌いな動物」なんてリストまで掲載されているので、読者は部屋主のキャラクターと、部屋のありようを正確にリンクして把握できるようになっていた。撮影した川本史織は1973(昭和48)年生まれの男性カメラマン。金沢、京都で写真の仕事をしたあと32歳で上京した。

「秋葉原は大好きで遊びに行ったりしてたんですが、当時はメイド喫茶の出始めで、いつかメイドを撮りたいとか思ってたんですね。そのうちディアステージ(秋葉原にある、アイドルのライブスペース&喫茶)と知り合って、そこのアイドルの子たちを撮るようになったんです。もともと僕はメイドやアイドル文化自体には、ほとんど興味はないんですよ。でも、撮影に来てくれる子がみんなおもしろくて。それでアイドルというより、ひとりの女の子として応援したくなる。そうやって写真が貯まってきて、自分でジンとかも作ってたんですが、やっぱり写真集にしたくなりますよね。そのときに出版社から、ポーズ集をアイドルでできないかというお話が来たんです。打合せの席で、アイドルの子たちが堕落部屋っていうのに住んでて……という話をしたら、いきなり編集さんが盛り上がってくれまして(笑)。それで「ポーズ集はどうせいっぱいあるから、堕落部屋の写真集にしましょう!」ってなったんですね(笑)。」 上野御徒町の裏手、古いビルの上階に川本さんはスタジオを構えている。がらんとした部屋の片隅には姿見とホットカーペットが敷いてあって、「ここは冬、寒いんで、待ってるあいだに風邪引かないようにと思って敷いてるんですけど、このうえで寝ちゃう子とかいるんですよ」という、なんともフレンドリーな雰囲気。こういう環境と本人の明るいキャラクターが、こういう写真を生み出しているのだろう。いやらしいけど過度にエロくはなくて。男の目をちゃんと意識しているけれど、媚びてはいなくて。明るく朗らかそうだけど、ちゃんと闇も抱えていて。そうしてそれが、芸能界がずっと再生産しつづけてきた、男たちの手による幻想の産物とは根本的に異なる、21世紀型のアイドルというまったく新しい存在のありようであることは、指摘するまでもない。