(上)三連作《無題》(2003〜2010年)/(中)三連作《無題》(2006〜2010年)/(下)三連作《無題》(2006〜2010年)
《無題》 2010 〜2014 年
2023年7月末から9月まで近江八幡ボーダレスアートミュージアムNO-MAで開催された二人展「並行世界の歩き方」でフィーチャーされた戸谷誠。2014年に出版した『独居老人スタイル』でも紹介させていただいた。
「品川区西大井。シャッターを閉めたままの薬局の薄暗い店内が、おびただしい数の絵画を広げたアトリエになっている。店の中央で、描きかけの絵を前に静かに座っているのが戸谷誠さんだ。
戸谷さんは1944(昭和19)年生まれの絵描き。でもいまどきの現代美術家ではないし、古典的な伝統絵画を描くわけでもない。自分だけの絵を半世紀以上描きつづけてきて、何年かにいちど小さな展覧会を貸し画廊で開くだけの日々を送ってきた。
もちろんそれで生活はできないから、早朝から昼まではビル掃除の仕事で生活費を得て、午後に絵を描く。描く気にならなければ、三分の一ぐらい開けたシャッターから鉢植えの植物越しに、道行く女たちの尻や足を眺めたり、絵筆を握ったまま寝込んでしまったり。「なんで続けてんだか、自分でもわからないんですよ」と言いながら、それでも毎日、絵の前にいる。」(2014年、メールマガジンROADSIDERS' weeklyでの紹介記事より)
戸谷誠のメインの作品は障子紙のロールをまるごと使った、長さ20メートルにもなる絵巻物。それもいちど完成した作品に幾度も手を入れ、また本人が「透き写し」と呼ぶ、手製のライトボックス的な装置で過去の作品を写し取り、加筆修正を好きなだけ繰り返して倦むことがない。それは年老いたミュージシャンが、若いころの音源をひたすらリミックスやリマスターする作業に熱中しているようでもある。