一時、昆虫標本の収集を試みたことがあった。東南アジアの土産屋に、あまりにも奇妙で心惹かれる標本がたくさんあったからだった。人気の高い大型の蝶々や蛾よりも、ナナフシのような造形の妙に目が奪われた。
マレーシアの首都クアラルンプールから、たしかクルマで2~3時間の町に「昆虫標本工場」があると聞き、行ってみたことがある。山のふもとの小さな町で、ジャングルに住む山の民が昆虫をつかまえて持ち込むのだという。工場(といっても小さな作業場だったが)を見せてもらうと、大きなカゴが並んでいた。覗いてみるとサソリ、大ムカデ、ナナフシモドキ……乾いた昆虫が何百、何千と山盛りになっていて、ホラー映画のセットに紛れ込んだ気持ちになったのを覚えている。