3階トイレの向かって右側の個室に展示している、骸骨と女が戯れるプリントは、おそらく戦前にヨーロッパで撮影されたビンテージ写真である。
まだチェコとスロバキアに分離する以前、共産主義体制時代だった1986年に、初めてプラハを訪れた。クエイ兄弟の「ストリート・オブ・クロコダイル」そのままの暗く幻想的な街並みに魅了されて闇雲に歩きまわるうち、一軒の古書店を見つけ、山になっていた古本のなかから見つけ出したフォリオが、このプリント(むろん印刷だが)だった。そういうものを探していたのではなくて、偶然に古本の山から出てきたので、むしろ僕のほうが本に見つけられたのかもしれない。
骸骨と裸体の女性が戯れる一連のイメージは「メメント・モリ=死を想え」を暗示しつつ、20世紀初頭の両大戦間のヨーロッパに花開いた退廃文化の匂いを、撮影されてからたぶん百年近く経つ現在も振りまいているようだ。
そのときの取材で編んだ特集がBRUTUS誌の「ウィーン、プラハ、ブダペスト 三都オペラ」(1986年4月15日号)で、BRUTUSでの最後の仕事になった。