35 BABU

 BABUは小倉を拠点に活動するストリート・アーティストであり、スケートボーダーであり、彫師である。そのアトリエは偶然にも、見世物小屋絵看板の絵師だった志村静峯の「大衆芸術社」があったのと同じ、小倉の中島本町にある。

 1983年生まれ、小学生のころから放浪癖に駆られ、ひとりで出歩くことが多かったという。14歳のころからストリート・ペインティングを始めて、以来ビルの壁面や、閉館した観光施設など、法的に言えば不法侵入とされる場所でのタギング/ペインティングを繰り返してきた。同時に熟練のスケーターとして、ストリートを滑走しながら路面にスプレーで線を描くなど、従来のアート・ギャラリーにはまったく収まらない、しかしけっしてストリートから離れることのない活動を繰り広げている。

 刺青のためのベッド、リサイクルショップやジャンク骨董から拾い上げた油絵に手を加えたキャンバス作品などが散乱するアトリエには、「ふつうのボードだけ乗っててもつまらないから」とつくりはじめた、とてつもなくオリジナルなスケートボードが並んでいた。畳のボード、舟盛りのボード、琴のボード(しゃがんで乗りながら演奏可能!)、そして立派なカウルを備えた暴走族単車のボードまで! もちろん、そのすべてが滑走可能だし、BABUは小倉のストリートをこうして走り回って、道行くひとたちを唖然とさせたり、微笑ませたりしてきた。

 最初にアトリエを訪れたときから気になっていたのが、部屋のあちこちに立てかけられた変な絵で、聞いてみたら「美大のゴミ置き場とかで、卒業シーズンにたくさん落ちてるのを拾ってきたり、国道沿いのジャンク骨董屋で二束三文で買い集めた油絵に、ちょろっと自分で描き足したり、背景を塗り込めたりしただけ」という。既存の絵画作品という、視覚のブレイクビーツを使ったDJのような確信犯的な「新作」群は、2017年6月に新宿BEAMSギャラリーでの個展『BABU展覧会 愛』でも披露された。これはそのときの展示作品の1枚である。ショッピングモールで売ってるような飾り絵に、漫画のキャラクターなどを描き足して作品化する現代美術作家がアメリカにもいるけれど、BABUの作品のほうがずっと突き抜けてるし、風通しがいい気がする。

 BABUは2018年にはまだ30代の若さで脳梗塞に倒れ、脳の3分の1を失う危険な状態におかれながら驚異的な回復力で復活。2021年6月には渋谷PARCO内のギャラリー、OIL by 美術手帖で開催された。